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仙台高等裁判所 昭和26年(う)727号 判決

控訴人 被告人 田辺てち

弁護人 葛西千代治

検察官 馬屋原成男関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を原判示第一、第二、第三、第五の各罪につき各罰金千円に、判示第四の罪につき罰金三千円に処する。

右各罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

大蔵事務官の押収に係る米麹二四合(証第二号)蒸米一八二合(証第三号)盛板(麹蓋)四九箇(証第四号)七升桶一個(証第五号)種麹三〇匁(証第六号)及び昭和二十五年十二月六日附大蔵事務官の押収に係る米麹一升(証第一号)はいずれも之を没収する。

理由

弁護人成田篤郎の陳述した弁護人葛西千代治名義の控訴趣意は別紙記載のとおりである。

原判決を査閲するに原判示事実を認定し各罪につきそれぞれ罰金刑に処し大蔵事務官押収にかかる麹室一箇を没収したことは所論のとおりである。しかして右麹室は記録を調査するとその大きさ一間半に二間の住家の一部である仕事場に造作したものであることが明らかである、かかる建造物は酒税法第六十二条第二項にいわゆる機械器具又は容器のいずれにも該当しないものであると解するのが相当である。従つて没収の対象とならないものであるのに拘らず、之を没収した原判決には法令の適用を誤つた違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三百八十条第三百九十七条により原判決を破棄し量刑不当の控訴趣意に対しては判断を省略し同法第四百条但し書により更に次のとおり判決する。

原判決の確定した事実を法律に照すと原判示事実はいずれも酒税法第十六条第六十二条第一項第二号罰金等臨時措置法第二条に該当するので、所定刑中各罰金刑を選択し所定罰金額の範囲内において被告人を原判示第一乃至第三及第五の各事実につき、それぞれ罰金千円に、原判示第四の事実につき罰金三千円に処し右罰金不完納のときの労役場留置日数の換算につき刑法第十八条を、没収につき酒税法第六十二条第二項を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野正太郎 裁判官 松村美佐男 裁判官 蓮見重治)

弁護人葛西千代治の控訴趣意

原審は被告人に罰金を科し且つ押収に係る証第一号乃至第六号を没収する旨宣言を為したところ、証第一号は麹室即ち麹製造用の建造物であつて不動産に属する、其価格数十万円且つ被告人の所有ではない。その掲ぐる没収適条は酒税法第六十二条であるが同条第二項には「前項の犯罪に係る酒類、酒母、醪、麹、原料、機械、器具又は容器は何人の所有たるとを問わず之を没収す」とあり右に所有機械、器具又は容器中には不動産たる建物を含む趣旨でないと解するが故に証第一号麹室を没収した原判決は違法であり一面に於て其科刑甚しく過酷に失するを免れない違法があるものと信ずる。

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